【Review】Techivation「AI-Rack」レビュー(AIチャンネルストリッププラグイン・機能と使い方・評価)
メーカーによる一次情報
AI-Rackは、AIシリーズを搭載したインテリジェントなチャンネルストリップです。直感的でパワフルなプラグインコレクションを1つの洗練されたインターフェースで使用し、スペクトル、ダイナミクス、ラウドネスを正確にコントロールできます。AIシリーズの各ツールは、あなたの創造性を邪魔しないよう設計されています。AI搭載プラグインのカタログが拡大するにつれ、AI-Rackはそれらを明確で高速なワークフローに統合します。トラックを再生して「Learn」をクリックするだけです。AI-Rackがオーディオを分析し、サウンドに最適なプラグインチェーンを提案します。提案されたセットアップを使用するか、独自のセットアップを構築するかに関わらず、各プロセッサーは入力に自動的に適応し、カスタマイズされた結果をもたらします。自由に微調整を行い、お気に入りのチェーンをプリセットとして保存し、数秒で呼び出すことができます。ボーカルからフルミックスまで、AI-Rackは、最も重要なサウンドに集中しながら、より迅速に作業を進めるのに役立ちます。
途切れることのないクリエイティブな流れを実現するために設計されたAl-Rackは、オーディオとミキシングの目標に合わせて調整できるプラグインチェーンを構築します。個別にも使用できる5つの高度なAIプラグインと、Rack専用のスペクトルTilt EQを搭載しています。ボーカルを巧みに操ったり、ミックスを引き締めたりと、Al-Rackは最小限のセットアップで一貫した結果をもたらします。
Techivationプラグインの互換性
macOS(IntelおよびApple Siliconチップ)およびWindowsに対応。
VST、VST3、AU、AAXでご利用いただけます。
5つのプラグインとRack専用のTilt EQを付属
Techivation AI-Rackに付属するプラグインをご覧ください
AI-Loudener
スマート・ラウドネス・エンハンサー
AI-Clarity
スマート・レゾナンス・サプレッサー
AI-De-Esser
スマート・スペクトラル・デエッサー
AI-Impactor
スマート・トランジェント・エンハンサー
AI-Compressor
スマート・ダイナミクス・プロセッサー
Rack専用プラグイン:Techivation Tilt EQ
Tilt EQは、Rack専用のリニアフェーズ・スペクトル・プロセッサーで、音色バランスを素早く音楽的に整えるように設計されています。スマートな分析機能により、オーディオの特性に基づいて最適なTilt周波数を自動設定し、EQ操作を後回しにすることなく、温かみや明瞭さを引き出します。チルト値をプラスにするとスペクトルがより明るいトーンにシフトし、マイナスにすると低域の重みが強調されます。
スペクトル処理により、位相の問題がなく滑らかで自然なサウンドが得られるため、補正作業にもクリエイティブな作業にも最適です。オプションのハイパスフィルターは、12、18、24dB/オクターブの3つのスロープオプションを備え、低域を正確にクリーンアップできます。不要な場合はフィルターを完全にバイパスして、信号に手を加えることなく、さらに高度なコントロールが可能です。
Tilt EQ backgroundTechivation Tilt EQ
クリエイターのためのスマートなソリューション
1つのラック。無限の可能性
スマートな信号分析で簡単なセットアップ
AI-Rackはオーディオを分析し、その特性を理解し、問題点を検出し、改善の余地を特定します。この分析結果に基づき、内蔵プラグインスイートから最も適切なツールを用いて処理チェーンを構築します。各モジュールは、ソースに合わせて内部処理アルゴリズムを適応させ、チェーン全体のバランスを調整することで、統一感のある仕上がりを実現します。
トータルコントロールを備えた効率的なワークフロー
内蔵のピーク、RMS、差異メーターに加え、リアルタイムのビジュアル波形アナライザーにより、処理の効果を正確にモニタリングできます。Al-Rackは、高度なシグナルシェーピングの複雑さを軽減し、より短時間でより高品質な結果を実現します。
単なるプラグインではない、完全なスイート
Al-Rackをご購入いただくと、ラック外で個別に使用できる5つのAlシリーズプラグインも付属します。これらのツールは豊富な機能を備えており、チェーン全体を必要としない集中的な作業に最適です。
その他詳細は公式サイトも併せて確認してみてください。
機能と使い方
Techivation「AI-Rack」はAIチャンネルストリッププラグイン。既にリリースされているAI-○○と製品名がついたAIシリーズのプラグインラウドネス・エンハンサーAI-Loudener、レゾナンス・サプレッサーのAI-Clarityスペクトラル・ディエッサーAI-De-Esserトランジェント・エンハンサーのAI-Impactor、コンプレッサーAI-Compressorの5つの製品が全てモジュールとして収録されていてプラグイン内部で使うことができます。また、この製品にはそれぞれのAIシリーズが個別のプラグインとしても同梱されています。バラで使うこともできるわけですね。それに加えてこのプラグインのオリジナルのモジュールであるティルトEQ(シーソーのように回転軸を中心に左右の周波数のバランスを上下させる。)Techivation Tilt EQも搭載されています。使い方としてはまず他のAIシリーズと同様オーディオを分析させます。8秒間かかるようです。少し長めですね。

最近のOzoneほどではありませんが。分析が終わると自動的に必要なモジュール(AIアルゴリズムで不要と判断されたモジュールは追加されません。)を自動的に並べてそれぞれのモジュールがオーディオ信号に最適なプロファイルを取得し、自動設定します。要は入力信号に最適な内部設定(これはユーザーは操作できません。)を自動で用意してくれるわけですね。
後からエフェクトモジュールを追加、あるいは削除することができます。モジュールを追加したり、削除すると当然オーディオ信号の処理も変化するわけですので、自動的に再分析が行われてそれぞれのモジュールの設定が再設定されます。ここで重要なポイントは単にエフェクトプラグインの詰め合わせではなく、相互作用で繋がっているという点。全てが内部完結しているため、もちろんそれぞれのエフェクトチェインの連関の詳細をユーザーが完全に理解するのは厳密にいえばほとんど不可能ですがプラグインチェイン自体を操作するとそれぞれがオーディオに適宜最適化して設定し直されるということです。
まず、新しいモジュールであるティルトEQについて簡単に分析してみましょう。こちらのモジュールもAIによる分析によりEQカーブが設定されてカスタマイズされるものになっています。画面ではMid Centre, Focusedと表示されていますね。
エフェクトゲインを2dBに変更してみると。高域の持ち上がりに対して対照的な低域のなだらかな持ち上がりが印象的ですね。周波数そのものの音響特性とその作用を鑑みれば納得です。
また、このモジュールはEQの操作に応じて倍音の変化が生じることも理解しておくとよいかと思います。(詳しく確認してはおりませんが、非線形性によるものでしょうか。)AI-Impactorよりも顕著に変化が見られます。
AI-De-Esserは既に個別のプラグインとして論じておりましたが、特徴的な形状で高域のポイントをアテヌートする特性は同様です。エフェクト量、あるいはMix量の増加に従って凹の輪郭の傾斜が険しいものになります。
AI-Impactorはトランジェントを操作することでいわゆるオーディオのインパクトを与えるプラグイン。エフェクト量を調整することでオーディオのトランジェントを操作します。画像のように初期トランジェントに変化が見られます。
そこにAI-Loudenerを組み合わせると。いわゆるボディが太く成形されるようになります。また、このモジュールは設定によっては倍音も付与されます。前述のようにモジュールには基本的にエフェクト量だけですのでもちろん手動でアタックタイムなどの時間の細かい操作をしているわけではありません。
さらにAI-Compressorを加えて実験的にやや過激にゲインリダクション(12dB)をすると。
大胆なゲインリダクションですが、トランジェントの特性はしっかり維持されています。ダイナミクスコントロールの組み合わせがなかなか優秀で、それぞれのモジュールにはエフェクトゲインだけでなくパラレルにMix量を調整できるのでちょうどよいかかり具合を微調整できるわけですが、複数のモジュールの組み合わせの設定を吟味することでより魅力的な処理をこだわって模索することができるわけですね。それぞれのモジュール自体が複合的なエフェクト処理をするものもある分、もはやその挙動を正確に人間が理解してコントロールするのには限界があるわけですが(実際アルゴリズム依存で操作できないパラメータも多い)、それらのバランスを処理の度合いの微調整によって耳で聴いて納得できるところまで追いこみをかけられるわけです。
評価
これまでもそれぞれのAIシリーズのオーディオ処理の挙動を中心に論じておりますが、それらが統合されたプラグインということで筆者は便利ツールがまとまって使いやすくなったくらいにしか考えておりましたが、いざ、全体のプラグインチェインのオーディオ処理を解析すると複合的にみると想像以上に怪物的なオーディオ処理が行われており、新たな世界が開いていると感じます。このプラグインを単なる時短と形容するのは早計といえるでしょう。確かに自動的に設定をカスタマイズしてくれるという、手軽さのようなものが一見すると感じられるかもしれませんが、それぞれのモジュールが相互的に作用しているため単純なエフェクトラックとは全く異なり、プラグインを使う敷居自体は高くはないと考える人がいてもおかしくはないですが、むしろ完璧に使いこなすのは難しいプラグインだと感じます。使えば使うほど時間が溶けそうな奥の深いプラグイン。
AIの精度についていくつかのソースを使用して確認してみた印象だとバスやそれぞれの個別トラックよりもマスターになると再検討が必要な場面があるように筆者は感じました。要はマスターに挿して終わりといったことはやめた方が賢明ということです。また、EQや周波数制御のモジュールは基本的に限定的な調整を前提に設計されています。ミックスの性格を大きく変えるような周波数バランスの大きな調整にも向かないと思います。まずはミックスを見直しましょう。
オーディオ分析のストリーミングが限定的であるのも起因していると思います。特に様々なトランジェント特性のソースがミックスされていると過剰な処理が加わる可能性があります。スネアのトランジェントが甘くなったりなど。これは製品の問題ではなく、プラグインの仕組みをある程度理解していればわかることでもありますが。全自動を期待している場合は留意すべきかもしれません。ダイナミクス系のモジュールが筆者としては特に驚きを感じるところで、それぞれのモジュールの性能もそうですが、それらの組み合わせによりラウドなサウンドを得る上で非常に有能な仕事をしてくれます。
一方で、モジュールを後で取り換えたりすることもできるので、行いたい処理に絞ってモジュールを用意して提案&調整をすることで思った以上に柔軟に器用に仕上げにこだわることができます。これまでも内蔵しているプラグイン5つは既に使える状態でしたが、全く別物の製品のようにすら感じさせます。これらが独立制御ではなく連関しているため設定方法が大きく異なるというのもそうですが、プラグイン内であれこれ設定を調整し、試せるのは独立しているプラグインでは難しいでしょう。モジュール式のプラグインとしてはiZotopeのOzoneがありますが、似て非なるプラグイン。Ozoneも1分に近い長時間の分析でエフェクトチェインを構築し、設定を提案しますが、基本的にそれぞれのプラグインモジュールは操作可能。それに対し、AI-Rackはほとんどがブラックボックスに入っていてエフェクトの取捨選択とエフェクト量を吟味することが求められます。AI-Rackの方が操作できる部分は少ないですが、エフェクトの操作でパラメータがアルゴリズムに従って動的に複雑に変化するので内部での調整は全く持ってシンプルではありません。操作はシンプルですが、複雑な内部構造ですので、仕組みがある程度わかっているとその合理化された制御の恩恵を大きく受けられるプラグインです。
総じて、AIを活用したプラグインはこれまでも多くありますが、これまでのプラグインの調整とは全く異なるアプローチを提案しているプラグインで、極めて新鮮な感覚を覚えるプラグインです。
また、製品自体の同梱として個別のプラグインとしてAIシリーズが付属するというのも結構魅力的に感じますね。
セール情報
既存の製品を所有していると割引が受けられることがあり、ログインをしてみると割引額がユーザーに応じて変化します。(ログアウトで比較すると変化がわかります)また、無料でトライアルもできるのでチェックしてみてください。