【Review】Three-Body Technology「Kirchhoff-EQ」レビュー(パラメトリックEQ・機能と使い方・他社製品との比較・評価)

【Review】Three-Body Technology「Kirchhoff-EQ」レビュー(パラメトリックEQ・機能と使い方・他社製品との比較・評価)

メーカーによる一次情報

『KIRCHHOFF-EQ』は、究極の32バンド・パラメトリックEQプラグインです。洗練された音質、アナログにマッチしたカーブ、15種類のスロープフィルター、実在のデバイスをモデリングした32種類のビンテージEQタイプフィルターを備えています。また、内蔵されているダイナミック・プロセッシング機能は非常に柔軟性が高く、歪みが非常に少ないのが特徴です。

究極の音質
『KIRCHHOFF-EQ』は、独自に開発した「Robust Nyquist-matched Transform」により、通常のIIR(無限インパルス・レスポンス)イコライザーのように高域が窮屈になることなく、デジタルの周波数特性をアナログに近づけています。この技術は、『KIRCHHOFF-EQ』のすべてのフィルタータイプに適用されています。

高精度な処理
ホストアプリケーション(DAW)の設定に関わらず、『KIRCHHOFF-EQ』の内部処理は常に64ビット(または117ビット)で行われます。64ビットは必須であり、交渉の余地はありません。

Psychoacoustic Adaptive Filter Topologies
すべてのリニア・フィルタは、理論上では同じ音になるはずです。しかし、実際には丸め誤差によって、すべてのフィルターが異なる音になってしまいます。『KIRCHHOFF-EQ』では、「Psychoacoustic Adaptive Filter Topologies」と呼ばれる技術を採用しています。帯域の変化に合わせてフィルター構造を「最適な状態」に変化させることで、低域と高域の両方で最適な音質を実現しています。


117ビット処理
64ビットだからこそ、さらに上を目指したい。『KIRCHHOFF-EQ』は「Double-Double」と呼ばれる手法を用いて、内部処理の精度を117ビットにまで高めました。これは、イコライザーとしては世界初の試みです。64ビットと117ビットの切り替えはいつでも可能です。厳しい耳をお持ちの方にも満足いただけます。

Linear-phase モードは、FIR(有限インパルス・レスポンス)フィルターであるため、常に64ビットを使用し、117ビットをサポートしていません。

その他詳しい内容は製品ページも併せて確認してみてください。


機能と使い方

Kirchhoff-EQは32バンドの設定ができるパラメトリックEQ。ここではまず、この製品が世にリリースされている製品の中でどのような位置づけにあるのかを客観的な視点から解説していきます。


まず、EQの設定として複数の位相モードが用意されているのが特徴。用途によって使い分けられるということです。最小位相モードはKirchhoff-EQはすべてのモードの中で最もレイテンシーが低くなります。いわゆるゼロレイテンシー。基本モードともいえ、最も汎用的に使用できるモード。そして最小とありますが、線形位相とは異なりEQの処理として位相が変化します。
アナログプロトタイプモードはフィルターが無限のサンプルレートを仮定したときの理論的な形状と実際のデジタルのサンプルレートの制限による差を埋めるために負荷とレイテンシをかけることで振幅と位相の差を補正します。アナログモードを選択すると、振幅と位相の両方が補正されますが、63サンプルポイントのレイテンシが発生します。
線形位相モードではその名の通り、このモードでは入力信号の位相は変化しません。位相応答がリニア位相モードは直線になります。これは一般的に良く知られていることではありますが位相の問題のない万能モードというわけではありません。負荷と非常に長いレイテンシーが発生するのはもちろんですが、 プリリングによりアーティファクト(可聴レベルになります)が発生し、フェードインのようにトランジェントが甘くなる弊害生じることがあります。これは素材によってはあまり聴覚上気にならないこともあるのですが、パーカッシブなサウンドにはより顕著になる傾向があります。これらは一種のトレードオフでケースバイケースで使い分けることになります。Kirchhoff-EQはFIR畳み込みによる線形位相モードを実装しており、畳み込みの長さを調整できます。畳み込みが長いほど解像度が高くなり、元のアナログモデルに近くなりますが、レイテンシーが長くなり、CPU消費量も増加します。
  • Low: 4095ポイントFIR​​
  • Medium: 8191ポイントFIR​​
  • High: 16383ポイントFIR​​
  •  Very High: 32767ポイントFIR​​
  •  Extreme: 65535ポイントFIR​​
そして最小位相と線形位相を異なる周波数でそれぞれ選択的に使用できるMixed Phase Modeがあります。一般的に好まれる手法のように低周波数では最小位相、高周波数では線形位相を使用するといった組み合わせができ、周波数が低い境界では、遅延が長くなるようです。
細かい所はもちろん異なりますが、ごく基本的な操作はFabfilter Pro-Q 4などをはじめとしたEQとほとんど差はありません。EQポイントを選択するとそれぞれのEQ
設定がポップアップで表示される点はFabfilter製品と似ていると感じる人もいるかもしれません。EQのフィルタータイプの書かれた小さなボタンを押すとリストでEQモードが出てきます。種類が多い分、同社Cenozoix Compressorのコンプレッサーモードの画面と比べるとやや探しにくいように感じ決して見やすいとはいえませんが、あまり本質ではないので目をつむりましょう。EQはそれぞれL、R、M、Sの単一チャンネルのみを処理することもできるだけでなく、MSモードだとスライダーでエフェクト量のバランスを調整できるようになっていてシンプルながらも便利。ただし、個人的な好みとしてはFabfilter Pro-Q 4の分離したチャンネルそれぞれのEQが画面に表示される設計の方が操作性の良さを感じます。(好みです。)操作が全て複雑というわけではありません。ダイナミックEQの検出機能が独自機能ということもあり難解かもしれません。ただしEQ全体の機能ではなくオプション設定です。

フィルタータイプはローパスハイパス、シェルフ、バンドパス、ベル、ブリックウォールタイプといった基本形状はもちろん一通り搭載されております。それに加えて有名な実機のアナログモデリングによるフィルタータイプが複数搭載されているのも特徴。実機の中で見られることがある非線形的要素は考慮に入れず、入出力時のハード固有のローパスまたはハイパスの作用は生じません。デジタルで再現しているのでハードではできない滑らかな周波数調整が可能です。SSL Console E, Console Gといったおなじみのモデルもあり、それぞれセルフ、ベル、ハイ/ローパスなど対応するEQタイプがセットになっているのが特徴。一例としてConsole Eモデルの公式データを公式サイトより引用しました。

Console E
クラシックなEQハードウェアにインスパイアされています。 LMFとHMFの形状が似ていることにお気づきかもしれません。どちらもベル型で、確かに似ていますが、サウンドがわずかに異なるため、個別にモデリングしました。周波数ポイントを分離してモデリングしているため、LMFを高域に、HMFを低域に適用できます。

フィルタータイプ 

  • E HP: ハイパス型
  • E LP: ローパス型
  • E LS: ローシェルフ型
  • E HS: ハイシェルフ型
  • E LMF: 中低域ベル型
  • E HMF: 中高域ベル型
  • E Low Bell: 低域ベル型、Q値は調整不可
  • E High Bell: 高域ベル型、Q値は調整不可

イメージとしてはハイパス、ローパスなどのEQモードの選択肢のなかにアナログモデリングの選択肢があり使えるというところ。設定するとアナログ風のノブのついたEQの設定が表示されます。実機のフィルターを再現しているので周波数のポイントやゲインを変化させることでEQカーブの形状も変化します。これは実機の特性の理解が必要かもしれませんがカーブの変化が画面に現れるのでむしろつまみしかないアナログモデリングEQよりも何が起きているのかわかりやすいかもしれません。ちなみにアナログモデリングのフィルターであってもダイナミックEQモードに設定することが可能。(Windowsの場合右クリックで設定が表示されます。)


Kirchhoff-EQはデフォルトで64ビットで動作するように設計されているのですが、内部処理の精度を117ビットにするモードが用意されています。(この処理精度は世界初。ちなみにリニアフェーズモードでは64ビット固定です。)
また、Kirchhoff-EQの他のEQとの差別化ともいえる一つの強力な機能としてダイナミックEQのレスポンスを非常に細かく制御できるエンベロープ検出のカスタマイズ機能があります。
ダブルエンベロープ検出という特殊な設計がされていて、基準となる周波数のボリュームを比較して周波数全体のバランスと相関して相対的に処理することができます。つまり、絶対値でターゲットとした周波数のカット/ブーストを行うと、オーディオ全体のボリュームとは関係なく余計に、あるいは不足して処理をするケースがあるわけですね。エンベロープ検出のセクションにはDetect(検出する周波数帯域)と下のRelative基準となるボリュームを指定します。
デフォルトでは、Detectパネルは処理するターゲットとした現在の帯域の周波数とQ値のエンベロープを検出し、Relativeパネルはオーディオ全体を検出します。Freeモードをオンにすると、オーディオ全体ではなく特定の使用する周波数帯域を手動で調整できます。つまり、対象の帯域とターゲットの処理するポイントを比較するわけです。
Freeモードがオンのときはピンクと青の線がUIに表示されるのでドラッグして動作周波数とQ値を調整したりできます。これは何に使えるかというと歯擦音の処理の際にDetect を高周波数に、Relative を低周波数に設定することで耳障りに聴こえるポイントをピンポイントに処理することができます。


S.Cはサイドチェイン。DetectとRelativeをサイドチェインとして設定できます。他の周波数の動きに合わせてターゲットとする周波数をダッキングをするなども可能。
Onsetはトランジェントエンベロープ検出の比率を調整するパラメータ。100% にするとトランジェントのみが検出され、エンベロープ検出はトランジェントシェイパーのように機能します。つまりオーディオのトランジェントの特性に応じて最適な検知ができるように調整もできるわけですね。
右端の Relative パーセンテージ値によって、相対エンベロープ検出と絶対エンベロープ検出のバランスを調整できます。Relative 値が 0% の場合、Relative を無効にし、一般的な絶対エンベロープ検出と同様の設定になります。Relative 値が 100% の場合、エンベロープはボリュームの相対比率から計算されます。つまりボリュームの大小にどれくらい左右されるかを調整できます。
DetectとRelativeの右側には、それぞれ左、右、中央、サイドチャンネルの検出を表すL、R、M、Sボタンがあります。Lを有効にすることで左チャンネルの音量のみを検出したり、 Mを有効にすることでミッドチャンネルの音量のみを検出するなどが可能。
例えば、ミッドチャンネルの音量のみを検出してミッドチャンネルとサイドチャンネルの両方の低域を圧縮する必要がある場合は、ローシェルフを作成し、そのMを有効にします。

また、鍵盤も出せます。


Fabfilter Pro-Q 4との比較

ここではまず、ざっくりと大きな違いを中心にピックアップしていきましょう。なおそれぞれのフィルターの比較等の厳密な比較検証は今後追記する可能性があります。Kirchhoff-EQはFabfilterの初代に対して後発になるわけですが、(現状メジャーバージョンアップデートで一番最新なのはPro-Q 4です。)UIの設計は一定の類似性を感じるところもあります。(ダイナミックEQの設定方法など)最小位相の位相歪みは設定を近づけて比較すると両者ほとんど差異がみられません。Kirchhoff-EQのアナログとPro-Q 4のナチュラルフェーズはEQの挙動と位相歪みに関して非常に特性が似ていて高域に差が少し見られる。リニアで比較すると(それぞれのExtremeなど設定を近づけながらを比較してみるとKirchhoff-EQの方がやや高負荷であるようですね。プリセットは若干Kirchhoff-EQの方が少なめな印象。Pro-Q 4と異なり、楽器や用途カテゴリごとに階層化されていない。ダブステップやR&Bのプリセットなどもありますが、割と網羅するという意図よりも最小限で良いプリセットを集めたという感じです。機能の多さを考慮に入れると充実しているとはいえないと言えるかもしれません。

最新バージョンになってからPro-Q 4ならではの機能が増えてきているように感じられます。また、Pro-Q 4ではEQの形状を自在に線描できるモードが追加されました。これが結構便利で、ポイントとQの幅を一つ一つ設定することなく、まず、ざっくりと設定できるのは便利。
また。セッション内のPro-Q 4インスタンスを一つのUIでいじることが可能に。また、入力信号のピークやスペクトラルの形状に応じて動的にフィルターの形状を変化させて処理するスペクトラル ダイナミクス処理が可能に。
また、ダイナミック EQ セクションが改善され、アタックとリリースの設定だけでなく、オプションでサイドチェーン フィルタリング機能が追加。ただし、いうまでもなく設定の柔軟性と選択肢の数としては上述のようにKirchhoff-EQの方が軍配が上がります。



評価

音質を求める人にとってはやはり外せないEQであることは間違いないでしょう。やや過剰なブーストカットであっても違和感がなく自然に処理できるように感じられます。また、アナログモデリングの種類が豊富にあり、これらの特性を理解している人にとってはPro-Q4以上に使いやすさを感じる人も多いと思います。(後者にはアナログモデリング系のフィルターはほとんどバリエーションがない。)また、ダイナミックEQの選択肢としてはそれぞれのオーディオを周波数に応じて相対的に抑制の挙動を調整できるので一般的なEQではできない設定の追い込みをかけられる点は重要だと思います。一方で、アナログモデリングの違いやダイナミックの複雑な設定を必要としない人、あるいは音質の追求よりも操作性を重視する場合は必ずしも第一優先ではないかもしれません。(アナログや線形位相の高解像モードは負荷がかかります。高音質のためのモードの恩恵が受けられない可能性があるのでマシンで動作するか要確認です。また、とりわけ通常のダイナミックEQと比較すると多機能気味ではあるのでそもそもダイナミックEQに慣れていない人にとってはこの機能はオーバースペック気味と感じる可能性があるかもしれません。設計上デフォルト設定で使うというのも十分想定されていると思いますが。)決して使いにくい設計というわけではありませんが単純なUI設計や操作性はむしろPro-Q 4の方が使いやすさを感じます。最新バージョンでフリーフォームのEQが描けるようになったのも大きい。一方で音の傾向は比較してみると一定の違いを感じるところがあり、全体的に設定を近づけて音質を比較するととりわけ高域の比較ではKirchhoff-EQ(線形位相の最高設定や117bitモード)にはPro-Q 4よりも人工的なシャリシャリ感や不自然なブーストをあまり感じられないように感じます。
Pro-Q 4のように気楽に(?)それぞれのトラックに挿すというよりもどちらかというとダイナミックEQをこだわって設定する場面やマスタリング用途にお世話になるプラグインだと思いますね。

最安値とセール情報


最安値は税抜き62ドルです。セール頻度はそこそこ増えてきた印象がありますが、割引幅に結構な変動がある印象。



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