【Review】Polyverse「Supermodal」レビュー(物質の音響特性・音色をエミュレートし、音色を別の素材へと変容させるフィルタープラグイン・使い方)

【Review】Polyverse「Supermodal」レビュー(物質の音響特性・音色をエミュレートし、音色を別の素材へと変容させるフィルタープラグイン)

非常に気になっていたので導入しました。

メーカー情報


スーパーモーダルは、比類のないサウンドデザイン機能を備えたパワフルでユニークなフィルターで、あなたの音楽を共鳴させます。幅広い共鳴体からモデル化された音響特性をエミュレートする強力なモーダルフィルターを利用して、通常のトラックを改造します。並列状態可変フィルターと拡張モジュレーション システムを組み合わせることで、1 つのオーディオ信号をさまざまな周波数に変換して、きらめく映画のようなサウンドスケープ、脈動するリズム、ハーモニー モーションを備えたパッドなど、思いつく限りのあらゆるものを作成できます。



特徴
  • モード間をシームレスにモーフィングできるモーダルフィルター
  • ミュージカルからマングルまでの27のモード
  • 200以上のプリセットとカウント
  • ドライブ SVF フィルター入力とモーダル フィルター出力
  • 素早く直感的なモジュレーションソースであらゆるパラメーターをモジュレート
  • 4 つの変調スロット間で相互変調
  • オクターブごとに 24dB のスロープ状態可変フィルター
  • SVF とモーダル フィルターのブレンド
  • レゾナンスが100を超えると自己レゾナンスする
  • パーシャルをコントロールして高周波または低周波を完全に除去
  • 減衰とダンピングのコントロールを使用してモーダル テールを整形する
引用:Supermodal

機能紹介

Polyverse「Supermodal」は通常のフィルタープラグインとは大分使い方が異なるユニークなプラグイン。一見わかりにくいのでまずはざっくりとコンパクトにまとめます。

Polyverse「Supermodal」はフィルターによって、楽器や声、素材の音響特性をエミュレートし、サウンドの音色を変えてしまうフィルタープラグインです。物体を叩いたり、刺激したりすると、振動して認識可能な音を発します。これらの振動は物体の素材を伝わって跳ね返り、相互作用して定在波を生成し、モードと呼ばれる共振周波数が発生します。これを利用して音を変容させてしまいます。


つまり、簡単にいうとシンセの音をアコースティックピアノやガラスを思わせるような音に変えてしまいます。フィルタータイプは以下のように金属から母音、等様々。これはサウンドデザインだけでなく、楽器の音の音色を思った感触に変えられてしまうという強力な機能ともいえます。例えば、ピアノの楽器の音に金属質な鐘の音色を加えたり、ガラスの音にしたり、木琴のような質感を加えたり。画面右のModalフィルターモデルがボール上にスロットマシーンのように選ぶことができ、以下の並び順で楽器特性ごとに並べられています。フィルターモデルはグラデーション配置されているため、ピアノとヴィブラフォンの中間等、モデリングの中間のブレンドされた音色を選ぶこともできます。これは後述するモジュレーションの際に重要な意味をもちます。

モーダル フィルターは、何百もの正確なバンドパス フィルターを利用して、さまざまな楽器、オブジェクト、波形などの共鳴体をモデル化します。 フランジャー、フェイザー、ボーカル フィルター、物理的および数学的にモデル化されたレゾネーターなど、合計27 のモードに対応する 3 つのバリエーションを持つ 9 つのモデルを作成しました。Supermodal は、ディケイ、ダンピング、パーシャル設定により、微調整されたコントロールを提供し、これらのユニークな音響特性をサウンド パレットに微妙に、または劇的に形成します。 

それに加えて周波数を整えるなじみのあるフィルターが用意されているので、適切にカットすることで音色をモデリングした楽器に似せたり、加工したりできるようになっているわけです。ローパス、ハイパス、バンドパスの他、レゾナンスも用意されています。そして、これらフィルターブレンドを調整できるようになっているので、音色が粗っぽくガラッと変えたくないとき、例えば、ちょっとだけ楽器の音にSAWのニュアンスを加えたいといった微妙なところまで音色をデザインできるのが良い。微妙な音色のニュアンスにまで追い込む繊細な音色づくりに使えます。 また、PARTIALSでは音色の変化が加えられる帯域を絞り込み設定できてしまいます。


そして、このプラグインの恐ろしいところはあらゆるパラメータにモジュレーションをかけられてしますという点。クロスモジュレーションによるモジュレーション同士のモジュレーションにも対応なので複雑な処理もできます。モジュレーションは細かく形状を描くことのできるシーケンサーやランダム、ADSR等が用意されており、フィルターを動かしたり、レゾナンスを動かしたりといったことはもちろんできます。シーケンサーはLFOカーブのプリセットパターンが用意されているので良い。フィルタータイプ(形状)をモジュレートすることももちろん可能。

モジュレーションをモーダルフィルターにかけると時間とともに楽器の音色を変えられるというすばらしい仕様。前述のとおりフィルターモデルはモデルごとに分類されて配置されているため、母音のモデルを変えることでVOXのようにしゃべらせたり、モジュレションのスピードを緩やかにすることで、ゆっくりとピアノからベルに音色を変容させたり。要はまさにスロットマシーンのようにモデリングされた楽器モデルがボールの正面に表示されるようにモジュレーションを描けば良い訳です。並び順があるので、もちろん構造上の制限(音色の移り変わりの軌跡について)はありますが、さほど気にならないレベルで思い通りの音色の変容をプログラムできる印象があります。
また、モジュレーション量はステレオチャンネルごとに独立させることまでできます。

 
Supermodal の魅力は、強力なフィルターと堅牢なモジュレーション システムを組み合わせることで完全に明らかになります。4 つのモジュレーション スロットは、メタ ノブ、ADSR、エンベロープ フォロワー、シーケンサー、MIDI/CV トリガー、ランダマイザーを含む 6 つのモジュレーション ソースを提供します。スロット間でクロスモジュレートして、さらに強烈なモジュレーションを作成することもできます。State-Variable フィルターと Modal フィルターは両方ともステレオで動作し、左右の信号を個別に、一緒に、または別々に変調して、畏敬の念を起こさせるステレオ効果を提供します。Supermodal の実質的にすべてのパラメータは、モジュレーションを受けることができます。

モジュレーション設定画面。このようにモジュレーションごとにチャンネルを設定できるのも攻めてますね。 ちなみにSpireのようにドラッグアンドドロップタイプのモジュレーションルーティングではなく、ONにしたモジュレーションが勝手に表示されてくれるのでモジュレーションを調整するだけでOK。





まとめ・評価


いままでにないような変わったプラグインですが、汎用性がとても高く、かなりのニーズが想定される製品といえます。特殊なプラグインなので他のマルチエフェクトプラグインのような基本エフェクトをベースにしたものではなく、基本的なツールは持っていてある程度道具のそろっている人向けの製品ではありますが、サウンドデザイナーや電子音楽制作者にとっては使いどころ満載で持っているだけで恩恵が得られることは想像に難くないでしょう。(実際に使うかどうかはひとまず置いといて少なくとも多くの人が一定の価値を見出すのではないでしょうか。)
楽器の質感をシンセのような非現実的な質感ではなく、オーガニックなニュアンスで微調整することができるので、生楽器にも使えます。動的なエフェクトとしてではなく、楽器の質感を整えるプラグインとしても大変重宝します。グラデーションのように素材の質感を調整できるため、
電子音楽系のUIなこともあり、派手な使用やどうしても飛び道具的な使用を思い浮かびますが、このように使用するケースを考えてもやはり非常に強力です。
アンビエントや映画音楽制作などにも漸次的に音色が変わっていく表現は美しいものからグロテスクな音色表現までできるというだけでその重要性は理解できると思われます。また、電子音楽の場合、高速のモジュレーションによって、目まぐるしくフィルターが動くのはもちろん、音色が次々とパラパラ漫画のように切り替わっていくのは他のエフェクトプラグインにはなかなか難しいユニークなエフェクト。派手なエフェクトや音色をしっかり聴かせたいエフェクトを作るのも良さそうですね。モジュレーションの制限がほとんどないので、柔軟性も高く、Polyverseの自信作とも考えられる完成度の極めて高いプラグインといえるでしょう。久々の大きな衝撃でした。